飛ぶ教室 Das fliegende Klassenzimmer

二百のいすが動いた。
二百人のギムナジウムの生徒ががやがやと立ち上がり、食堂の出口におしかけた。
キルヒベルクの寄宿舎の昼ごはんが終わったのだ。
(1章 より)

ドイツの児童文学作家、ケストナーの傑作の一つ、飛ぶ教室。
舞台となるのはクリスマス数日前のドイツのキルヒベルクにある寄宿学校、ギムナジウム。
10歳から18歳の少年たちが親元を離れてここで寝食を共にしています。

そこで暮らす五年生の少年たち、
家が貧しくも秀才で曲がったことが許せないマルティン、幼い頃に親に捨てられた作家ジョニー、腕っぷしが強くいつもお腹を空かせているマティアス、臆病なことが悩みの小柄なウーリ、いつも難しい本を読んでいる弁論家のゼバスティアーン。

この仲良し5人組が、クリスマス集会で発表するジョニーの書いた劇「飛ぶ教室」の稽古に励むところから物語は始まります。

「それから、体育館に来るのを忘れないでよ。また舞台げいこするんだから。」
「あったりまえ!」
マッツはこくんとうなずいて、割れクッキーを買いに、北通りのパン屋、シェルフ親方の店めざして姿を消した。
(1章 より)

この「あったりまえ!」はギムナジウムの少年たちの合言葉です。

彼らそれぞれの抱える苦悩や不安、そして喜び。
少年たち5人にあたたかく寄り添い導くのは、舎監先生の正義さんと市民農園に住む禁煙さん。

この2人の大人の登場人物には、子どもの心を決して忘れないケストナー自身の姿が浮かびます。
まえがきでもケストナーはこのように語っています。


誓ってもいいが、子どもの涙はおとなの涙よりちいさいなんてことはない。
おとなの涙よりも重いことだって、いくらでもある。
(まえがき その二 より)


この一冊の中だけで心に留めておきたい言葉は山ほど登場しますが、その中の一つです。

ケストナーがこの本を発表したのは1933年、ドイツがナチス政権の手に落ちた年です。多くの素晴らしい本が焚書され、作家たちは国を追われました。
そんな時代にあって、ケストナーは社会の在り方を批判する思いもこの物語に込めています。

かしこさをともなわない勇気は乱暴でしかないし、勇気をともなわないかしこさは屁のようなものなんだよ!
世界の歴史には、かしこくない人びとが勇気をもち、かしこい人びとが臆病だった時代がいくらもあった。
これは正しいことではなかった。
(まえがき その二 より)

また、作中でドイツ語のクロイツカム先生は言います。

「平和を乱すことがなされたら、それをした者だけでなく、止めなかった者にも責任はある」
(7章 より)


ケストナーは、ナチス政権下の辛い時代に生きることとなる子どもたちに向けて、負けてはならない!と、この素晴らしいクリスマスの物語を贈ったのです。

子どもたちに友情の素晴らしさや、勇気とかしこさをもつことの大切さを教えてくれるこの本は、大人になり親となった私にも、多くのことを教えてくれます。

それは、子どもの心を決して忘れてはいけないということや、娘とこれからどうやって悩みや苦しみに向き合っていくべきかであったり、とにかく、たくさんのこと。
娘が大きくなったらぜひ読んでほしい物語の一つでもあります。

今を生きる子供たち、そして親たちの心にも、きっと何かを残してくれるクリスマスの傑作です。


最後にゼバスティアーンの彼らしいクリスマスに向けた一言を。

「おれはいつも、最後の最後までじっとしていようと思うんだ。もうこんなことはやめようってね。だって、これはかなり古くさい習慣だろ?
だけどいつもやっぱりとびだして来ちゃうのさ。きっとなにかあるんだな。
そして結局、だれかになにかをプレゼントするってことが、楽しくなってしまうんだ。そう思わないか?」
(10章 より)

作品について
題名:飛ぶ教室
作者:エーリヒ・ケストナー 作 池田 佳代子 訳
出版社:岩波書店
おすすめの読書シーン:クリスマス ホリデーシーズン 困難にぶつかった時
おすすめの年齢:小学校高学年〜
(絵本は赤ちゃんから大人まで読む年齢に決まりはないので、あくまでもご参考程度に)

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